ウフィッツィ美術館やアカデミア美術館、ピッティ宮殿にサン・マルコ博物館・・・と挙げればきりがないのほどフィレンツェの博物館の中では、バルディーニ博物館はいたって地味な存在かもしれません。実際、私もこれまで名前を聞いた程度で、そばを通っても「あー、これかー」くらい。なんなら博物館はどっちでもいいから、庭園は行きたいな、とまで思っていたほど(苦笑)↓ 結局、庭園は博物館と別になってたことをあとで知ることに。
しかし昨年にフィレンツェ圏カードを購入し、バルディーニ博物館を含むフィレンツェ市立博物館が入り放題になったので、有効期限が切れる前に行っておこうと、先月にやっと行ってきました。で、その感想は・・・これは、期限切れるまで、時間があれば何回も行きたい!と思ったほど、素晴らしいものでした。
この博物館の面白いところは、現在こそフィレンツェ市立博物館になっていますが、元々はステファノ・バルディーニの個人所有だったこと。ステファノ・バルディーニは、1800年代後半、「アンティークの王子」と世界的に知られたフィレンツェのアンティーク商。写真上の建物左が博物館ですが(入口はここではなくこの左側面)、元は1237年建築のサン・ジョルジョ・デッラ・パーチェ修道院。これを1880年にバルディーニが買い取り、自分の顧客用のショップ(!)に改装したのです。
バルディーニはアンティークの目利きであり、またそれらをいかに引き立て合うように展示するか。元々あった空間を生かしながら、いかに美しい環境を作り上げるか。1つ1つの展示物も素晴らしいものですが、何よりも、その空間全体の美しさに魅了されてしまいます。当然ながらこのショップには世界中の収集家や、美術館関係者が多く集まったと言います。
上の写真の部屋は、古代~中世の大理石の彫刻の間。天井は照明パネルをはめ込んでいます。
通常の博物館であれば、年代や作者ごとに展示室を構成していきますが、バルディーニはそういったことにはとらわれず、自身のセンスでこの建物全体をコーディネイトしていったのです。こちらは2階にあがるホールですが、ここには数々の紋章が。
紋章のホールは別として、ほぼすべての部屋はトーンの違うブルーの壁になっており、「バルディーニ・ブルー」と呼ばれています。下の写真は階段上がってすぐの、聖母子像の間。
左側の壁には、作者や年代がミックスされた聖母子像がすらり。多くは色彩テラコッタのレリーフですが、レリーフの形に合わせて左右対称にレイアウトされています。そして床面にはカッサパンカ(座面が開いて収納箱を兼ねたベンチ)のコレクション。そすて反対側には・・・
ドナテッロの作品とされている聖母子が2つ。左は1433~35年に制作の「ロープの聖母」。今は分からなくなっていますが、背景にはロープで遊ぶ5人の子供たちが描かれていたそうです。木製のレリーフをベースに陶器を混ぜたペーストで造形され、色彩漆喰で仕上げられています。背景にはモザイク状になった皮革も使用されているという、今までにあまり見たことがない素材と技術が使われています。いっぽう右は、1425年頃までに制作の「リンゴの聖母」。色彩テラコッタで、バルディーニ本人はギベルティと、また他にもルカ・デッラ・ロッビアとする説もありますが、今はドナテッロかルカ・デッラ・ロッビアか?で落ち着いているようです。
二階には他にも、陶器を並べた部屋、その一角には額をだけの壁、ドアのノブだけの展示、そして大型絵画の部屋などがあり、上った階段とは別の階段には、いろんな国のいろんな時代のカーペットが壁面に。とにかく、どのディスプレイも何気ないようで考えつくされた?、その空間に魔法をかけられたようにぐっと心をつかまれます。
紹介しきれないほど面白いもの、貴重なものがあるのですが、それは下のギャラリーでご覧いただくことにして・・・1階に再び戻って面白かったのは、武器の部屋。他の展示と同じように、盾だけが固まって展示されていたり、様々な剣がまとめてあったり。この時代は、武器も立派な芸術作品で、手のカバーの細工だったり、持ち手の革や滑り止めの鋲でさえも本当に美しいのです。
このアンティークの「ショップ」は、第一次世界大戦後はギャラリーに転向、そして1922年の彼の死後は、遺言によりフィレンツェ市にそのまま寄贈されたのでした。なんとも太っ腹!そしてフィレンツェ市もその遺志を継ぎ、こうして博物館として残されているのです。
フィレンツェとの縁にちなんで、1階の一角には、1881年に行われた市の古い区画や教会の解体、また市が買い取った教会とその信者会などから、フィレンツェにゆかり深いものが展示されています。中央には、観光客の方にもおなじみ?の、イノシシ像。現在、新市場の広場にあるのはレプリカで、オリジナルはこのバルディーニ博物館にあります。右には、ジャンボローニャ作の小悪魔の彫刻も。
そして、イノシシ像の左壁のフレスコ画・・・この作者は、なんとステファノ・バルディーニ。なんと彼はもともと画家を目指していましたが、その才能はないと早々に修復へ転向、その後、その目利きと商売の才を生かし、アンティーク商となって大成功するのでした。
いったい、バルディーニってどんな人だったんだろう・・・?と思いながら出口へ向かうと、チケット売り場カウンターの右のスペースに、彼の写真がありました。濃淡が大きくて顔がよく分からないですが、どんな思いでこの館を作り上げたのだろう、とかってに妄想。そして時代の最先端であった写真にも関心があり、ここのスペースに展示されているような目録目的の各芸術作品の写真、当時は販売のための展示空間も写真撮影を積極的に行っていたそう。
冒頭に書いたように、フィレンツェは美術館・博物館が多すぎて行く場所に悩みますが、ここは本当におススメ。美しいものが好きな方、特にギャラリー巡りが好きな方、ギャラリーを営んでいる方には、もう悶絶モノの空間だと思います。
ギャラリー(クリックすると拡大します)
基本情報
Museo Stefano Bardini
Via dei Renai, 37
Tel : +39-055-2342427
金~月・11:00‐17:00、火~木は閉館
1月1日、イースター、5月1日、8月15日、12月25日は閉館
※2021年6月現在、必ず上記サイトより開館日時を確認してください
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