サンタ・クローチェ教会、サンタンブロージョ市場など、観光客にもなじみの場所近くにありながら、ちょっと風変わりな外壁を持つ一角があります。粗野な壁に小さな窓がいくつかで、とても閉鎖的な雰囲気。そうかと思えば、壁と一体化した教会のファサードがあったり・・・レ・ムラ―テ=壁でふさがれた、と呼ばれているのは、まさに風貌から。調べてみると、もともとは1400年代に建設された修道院で、1800年代には刑務所として使われていたところ。現在はリノベーションされ、市の青年政策課の事務所やアート系の団体、本屋、カフェ、そして市営住宅となっています。その歴史とリノベーションについては、担当をしていた市の建築家さんへの取材の後、建築デザイン系ウェブマガジンFRAZE CRAZEさんの連載に寄稿しますので、しばしお待ちくださいませ。
さて、そのかつての刑務所だった場所が見学できるというので、さっそく行ってきました。
週末はフィレンツェ市がツアーを主催していますが、その他の日でも、刑務所の姿がそのまま残ってるエリアを使用しているアート団体のスタッフの方がガイドして見学をさせてくれます。レ・ムラ―テの中には大きな広場が2つあるのですが、この団体MAD(Murate Art District)はムラ―テ広場の西側にあります。彼らの営業時間であればいつでもOKですが、事務所受付を無人にはできないため、電話やメッセージを入れておくと待たされることもないと思います。
3階だったので私はエレベーターで行ったのですが、階段の場合はこの写真の左の階段から上ってきます。このエリアは戦後に完全に壁で閉ざされていたため、リノベーション計画を進めていた最中に見つかったそう。階段に分厚い木板で閉じられるようになっているのは、ここに収容されていた受刑者が逃走できないため。しかしこれは最後の砦であり、受刑者の独房にはさまざまなバリアが張られています。
真ん中にある扉を開けると、左右に6つづつある独房。これは2000年に見つかったそのままを保存しており、第二次世界大戦のファシズム統治の終焉まで使用されていたそうです。
こちらは独房の入口の反対側にある通路。つまり、独房の窓すぐは下界ではなく、もう1つの通路があり、当然どちらの窓にも重厚な鉄格子がつけられています。そして、独房の窓には木の鎧戸が・・・重刑、特にフォシズム下での政治犯として収容されていた受刑者は、木の鎧戸が閉まった真っ暗な中、日も時間も何も分からないまま、孤独に耐えながら生きていたというのです。
外部とのコミュニケーションは、扉に備え付けてある1枚の札のみ。この札が外側にせり出していれば、何かを伝える必要があるサイン。それも当然ながら、扉を開ける前に小さなのぞき窓からのコミュニケーションのみ。
そんな中で受刑者は何を考えていたのか?何をしていたのか?は、この落書きが物語っています。それは「オンナと政治」!
どこで鉛筆を手にしたのかは不明ですが、独房のほとんどに何かしらの落書きがあります。多くはこんな風に女性の姿。愛していた女性なのか、妄想の女性なのか・・・あるいは自らの政治主義、たとえば共産党のマーク。このマークをしるすことで、その主張を貫く決意を固めていたのか。ガイドをしてくれた男性が「これがもう僕は大好きで、必ず紹介するんですが・・・」と教えてくれたのが、こちら。
「SI PREGA D CHIUDERE=ドアは閉めてください」。受刑者として独房に入れられているのにも関わらず、開けたら閉めてね!と書くユーモア?皮肉に、ぷっと吹き出しつつも、その状況を想像すると複雑な気持ちに・・・これを書いた人はどんな罪を犯したのでしょうか?この独房で人生の最期を迎えたのでしょうか?
重刑者の独房エリアの後は、2階に下り、軽い刑罰の収容エリアへ。こちらは複数人で利用しており重刑者エリアよりも広く、中庭に面した窓もありました。このエリアは、リノベーションの後はMADが主催するアート展示のスペースとして利用されています。
フィレンツェといえば教会や美術館巡りが主な観光になりますが、ちょっと変わった歴史の遺産も見学してみてくださいね。海外の刑務所の見学など、なかなかできるところはないでしょうから(笑)。
ギャラリー(クリックすると拡大します)
基本情報
Murate Art District
Piazza delle Murate
Tel : 39-055-2476873
火~土・14:30~19:30
予約がベターですが、スタッフがいれば随時見学させてくれます。ガイドは英語も可能、見学は無料。
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