私の中では行った村が少ないピサ県ですが、前々からとても行ってみたかった村がこのペッチョリです。実は10年以上前に息子たちのためにペッチョリ近郊の恐竜公園に行き、その後にちょっとだけペッチョリの村も散策したのですが、あまりはっきりした記憶はなく・・・しかしこの数年にSNSで見る斬新な村の様子に驚き、ちょっと調べてみると面白いことが分かりました。それは、TOP写真のアーチの下にある頭文字「MACCA=Museo d’Arte Contemporanea a Cielo Aperto」、つまり、屋外の現代アートミュージアム。始まりはなんと30年近く前、村のプロモーションツールとして採用されたのは「現代アート」。今ある資源を活かすのではなく、新しいものを取り入れるのは、意外とクローズなイタリア文化の中ではそうそう簡単ではなかったと思います。特にこんな小さな村、中世の面影を残す村では、景観問題であるとか、市民や市議会でも反発があったのでは?と想像に難くありません。実際、初期にインスタレーションされたのは、村に自然に溶け込むようなレンガ色の作品がほとんどでした。
写真左は、なんと日本人の長澤英俊氏の作品で、「降下する柱(1992年)」。写真にも見られるように、それぞれの作品には解説パネルがついています。
気ままに散策しながら探すのもいいですが、まずは村の中心にあるポポロ広場の観光案内所に行って、MACCAのパンフレットをもらうと良いでしょう。マップと作品の解説が年代順に並んでいます。作品の総数は現在までで70近く。村の中、そして分離集落へも広がり、鑑賞のために作品を探すことが自然に村の隅々、この地域をめぐることになるという訳なのです!
2011年からは村の景観覆すような大規模な作品や建築が増えていきます。その最たるものは3つ。1つ目は、ペッチョリ周辺のゴミ回収施設のインフラ整備から生まれた会社に設置された巨人の4つの像で、そのうち1つは村すぐそばの屋外劇場に設置されています。村の中からでもその姿が見られ、近づくにつれてその大きさが実感できます。
巨人の近くから村を見るとこの通り。
そして2つ目は、中世起源の建物をリノベーションしてコンフェレンスやアートの展示会を行う「Palazzo senza tempo(直訳すると時のない建物、過去・現代・未来をつなぐものとして命名)」のテラス。私がペッチョリのこの取り組みを知るきっかけになった建築です。
このテラスはPalazzo senza tempoからしか行けないと思って開館時間を調べて行ったのですが、近くの路地からいきなりこのテラスに出てびっくり。そう建物に入らなくても両脇の路地から直接このテラスに行くことができます。そう考えると、早朝や夕暮れに行ったらどれだけ美しいのだろうか・・・それだけで、ペッチョリに泊りたいな、と思ったほど。2枚目の写真は下にあるカフェからテラスの下を見上げたものです。カフェも屋外席がありますが、屋内も全面ガラス張りのため景観を十分楽しめます。
屋外の階段と全く同じように室内も階段になっていて、写真のように座ることができます。壁側には2段ごとにコンセントがあるのでスマホの充電やちょっとしたパソコン仕事にもつかえてとても便利。私は通り雨にあったので、ここでスマホを充電しながらゆっくり寛がせてもらいました。
そして3つ目が、村の端の地下に複数回にまたがる駐車場と新市街をつなぐ歩道橋。
歩道橋に設置されたカラフルな渦巻きは「エンドレス・サンセット」、終わりのない空の色の移り変わりを表しています。旧市街からエレベーターで下り、歩道橋を歩いて行くと真ん中に1つ、端に1つ、と新市街の2か所にエレベーターで下りられるようになっています。なのでここはまさに市民の足で、ベビーカーを押す若い夫婦や犬の散歩の人、私のような観光客もちらほらと。外から中から、下からと写真を撮ってみましたが、なんだか村に溶け込んでいるのが不思議です。
その他にも石のアーチに照明パネルを使った作品や、教会内のベンチに座ると小さな物語の朗読が聞こえてくるVoceシリーズ、市民の目だけを切り抜いた「ペッチョリの視線」など、趣向を凝らした斬新な作品にたくさん出会えます。ギャラリーに写真を多く掲載していますので、ぜひ覗いてみてくださいね。
ペッチョリは現代アートだけでなく、環境問題や未来の市民生活についての取り組みにもとても熱心。TOP写真にある小さな車は電気エコカーで、旧市街から従来車両をなくそうと数年前から市と旧市街内の商店・会社で使われているもの。また大学の研究室とのコラボで実用ロボの実地実験を行ったり、今年はニューヨーク工科大学とのコラボでヴェネツィアのビエンナーレに出展したり、と、ただの「村おこし」にとどまらない躍進を続けています。小さな村に住み、自分の興味もあって様々な小さな村の取り組みを見てきましたが、この村の活動は規模も内容も一線を画すもので、住民でもなんでもない私も記事を読むたびにワクワク。そして住民はどんな感じなのかと言うと、さすがに30年も続いた取り組みで、始めた市長が再選をつづけて累計5期目を勤めていることもあり、現代アートもロボットも観光客もいい意味で「日常」になっている様子。革新的な町並みとのんびりとベンチに座ったり、立ち話する市民の対照的な姿が印象的でした。
観光はもちろん、建築や村おこしに興味のある方はぜひ訪問してみてください。
ペッチョリ行きのバスが発着するポンテデーラにはバイク好きにはたまらないピアッジョ博物館
ポンテデーラから行けるもう1つの素敵な村はヴィコピサーノ
同じくポンテデーラから大き目の見ごたえのある村、ヴォルテッラにも行けます。ペッチョリからはポンテデーラに戻らずに、乗り換え1回はありますが、ヴォルテッラに行く便もありますよ。
ギャラリー(クリックすると拡大します)
基本情報
【行き方】
フィレンツェより直通電車で45分、ピサ中央駅より直通電車で20分のPontedera-Cascina.T 駅下車。駅前から前方左にあるバスターミナルより、バス460番で約40分。
バス460番の時刻表や路線図はこちら
「Download line timetable and map」をクリックすると時刻表がダウンロードできます。
電車の乗り方などについてはこちら、
バスの乗り方などについてはこちらを参照ください。
愛すべき、美しい30の村
飾らない、ありのままのイタリアへ!人口や景観など、「イタリアの最も美しい村」協会が設けた厳しい基準を満たした村だけが加盟を認められる「イタリアの最も美しい村」。その中から、イタリア在住20年以上、トスカーナ州の田舎町に暮らす著者が、“忘れられない”30の村をセレクト。古きよきものが息づく小さな村の魅力を、旅先での出会いやエピソードをちりばめながら綴る。
本の詳細はこちら
「フィレンツェから日帰りで行ける!トスカーナの小さな村10選」
「トスカーナのおうちごはん春夏編20レシピ」
「コロナ・ロックダウン緩和直後のイタリア・フィレンツェ記録写真集(モノクロ版)」
「コロナ・ロックダウン緩和直後のイタリア・フィレンツェ記録写真集(カラー版)」
「トスカーナのおうちごはん秋冬編20レシピ」
いずれも読み放題に入っています!