サン・サルヴィの「最後の晩餐」と並び、アンドレア・デル・サルトの代表作と言われるのが、このスカルツォの回廊にある「洗礼者ヨハネの生涯」。サンマルコ広場のすぐ近くにありながら、旧市街外に向かって逆にあるためか、存在に気づかないほど小さな小さな教会の中にあります。スカルツォ=裸足、というのは、この教会が聖人ヨハネの信心会の教会であり、信心会員が十字架を運ぶ行列を行う時に裸足であったことから、通称このように呼ばれているそう。教会自体は大部分が破壊されており、唯一残ったこの回廊のため、19世紀に開けられるようになりました。
モノクロなので未完成なのかな?と思いますが、調べてみると依頼者の予算に合わせて元々からモノクロで計画されたとか!テーマは「洗礼者ヨハネの生涯」で、8枚のパネルから構成されています。入口から入って右からがストーリーになっていますが、書かれた順番はそれとは違っています。一番古いものは、入り口と反対側の壁・右側にある「キリストの洗礼」で、1509~10年に描かれました。
サン・サルヴィの「最後の晩餐」で受けた、柔らかく落ち着いた印象、というのは、単に色の淡さだけでないということがよく分かります。モノクロだけに近くで見ると細かい筆のタッチがよく分かるのですが、アンドレア・デル・サルトの筆跡そのものがこの印象を作り上げています。
「最後の晩餐」も「キリストの洗礼」も、よく知られている作品はレオナルド・ダ・ヴィンチのものですよね(後者の場合、レオナルドが描いたのは左側の天使やキリストの足元の水など一部)。どちらの作品も描いた時代はアンドレア・デル・サルトが遅く、レオナルドの特徴である空気や濃淡による遠近法、この絵だと人物と背景との描写の違いがよく表現できているように感じます。シーンが、ふんわりと浮かびあがってくる感じ。
その左に続く「洗礼者の説教」や「人々への洗礼」が描かれたのは、1515~17年。保存状態の差かもしれませんが、「キリストの洗礼」よりも筆跡が強く・濃く、力強く描かれています。それから続くシーン、そしてストーリーとしては最初のシーンは1520年を超えているのですが、なぜこんなに時間が離れているのかと言うと、実は、1517年にいくつかのシーンを仕上げた後、アンドレア・デル・サルトはフランスへ移住したのです。正式に言うと、移住するつもりだったのですが、そのいない間に友人で協働していたフランチャビージオが1518~19年、「砂漠へ発つヨハネの祝福」「キリストとヨハネの会談」を仕上げ、その後、結局フィレンツェに戻ってきたアンドレア・デル・サルトにより、残りのシーンが描かれてゆきます。
「洗礼者ヨハネの生涯」だけでなく、その上にある帯状装飾や、入り口の脇とその向かいにある4つの徳なども担当。なので、回廊全体としても、とても調和のとれた空間となっています。これだけ素晴らしい作品でも、やはりフィレンツェの美術館の中ではマイナーな部類に入ることもあり、人はまばら。私が行った時はまさに「貸し切り」状態で、イスに座ってじっくり体感した後は、1つ1つ丁寧に見たり、写真やビデオ撮影したり、30分ゆっくり楽しみました。そう、ゆっくりしても30分あれば満喫できるのですから、ぜひぜひ時間を空けて訪問してみて下さいね。
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基本情報
Chiostro dello Scalzo
Via Camillo Cavour 69, Firenze
Tel : +39-055-5365640
火~金と、毎月第1・3月曜と、第2・4日曜のみ開館
いずれも時間は8:15-14:00
入場無料(入ってすぐのカウンターで、来場者名簿にサインしてください)